「すべての女性の髪をきれにしたい」エヴァロン開発者 水野恵介氏の想い


SPEAKER

美へのこだわりと貫く正義

ーーヘアアイロン「エヴァロン」の開発者である水野恵介さんは生前どのような方だったのでしょうか。

雄介
父は美容師として全ての女性の髪、お客様をきれいにしたいと本気で考えていました。とても研究熱心でしたので、家に帰ってからもテーブルに美容材料を拡げては毎晩遅くまで研究したり、車を研究所だと称して人がまったく乗れないほど美容材料で溢れていたりすることもありましたね。
勝代
父はいつも「お客様はきれいになるために美容室に来ているのに、なぜパーマ液やヘアアイロンで髪を痛めてしまうのだろうか」という疑問を持っていました。そんな父は夜な夜な、太くて剛毛でその分キューティクルが少ない私の髪を練習台としてデジタルパーマや新しいカラー剤を試すこともありました。

父がなぜ美容師になったのかと申しますと、父が19歳の時に学生紛争で大学が封鎖されてしまい、その時に大学を辞めて美容学校へ行ったからです。その後、ロンドンのヴィダルサスーンへ留学したり、フランスの女優カトリーヌ・ドヌーヴのファンでパリに行ったりと若い頃からいろいろな国に訪れていました。

しかしイギリスやロンドンといった欧米の美には、アジア人の髪質や骨格が合わないと父は若い時から気づいていました。それはアジア人だから劣っているという意味ではなくて、アジア人の良さを引き立てる美のつくり方を父は熱心に研究していたようです。

父が亡くなり、遺品整理をしていると、まるで研究者のような完璧なウイッグのデッサンや図解など、細かい字でみっちりと書かれたノートがたくさん出てきましたね。
鎌田
水野先生は常に探求心が強く、アジア人の髪を熱心に探求した人は水野先生が一番じゃないでしょうか。ある時、聞いたことがあるんです。「先生は大学に行き、なぜ美容師になったのですか」と。すると先生は元々芸術家になりたかったけれど、それではごはんが食べられないから美容師を選んだとおっしゃっていました。水野先生は美容師でありながらも、根本はクリエイターであったんだと思いますね。
樫原
僕は1976年、高校を卒業する少し前から見習いとして水野先生のもとで働いてきました。お客様はよその美容室ではどうしようもできなかった髪質の方ばかりで、水野さんを信頼して指名されていましたね。

僕は水野さんのもとで育ったので当たり前だと思っていることでも、一般の美容室ではやらないことも多かったですね。例えば、パーマは一般的なオールパーパス巻きではなく、すべてスタイル巻き。ヘアカラーも3色ですべての色をつくるなど、水野さんは美への想いやこだわりはすごく強い方でした。
勝代
そうですね、父は自分でも「面倒くさいことを言うから美容師さんは嫌がるだろうね。でもこれの方がきれいなんだよ」というのはいつも言っていましたね。
雄介
父はあたり前があまり好きではない人でしたから、この使い方はこうしかできない、と決めつけるのではなく、他の観点で見たり、考えたり、特殊な見方をすることは多かったと思いますね。

美容大国の韓国で出会った1本のヘアアイロン

ーー水野氏が新しいヘアアイロン「エヴァロン」を開発されたきっかけを教えてください。

樫原
2004年に水野さんから韓国で「けっこう面白いものがあるから一緒に行こう」と誘われたのがきっかけですね。その時、韓国の工場で見たのは、ヘアアイロンにラバー(ゴム)を被せているだけのもの。初めて見た時に「これは何なのだろうか」と思ったのが正直な感想です。

さらに衝撃的だったのは、ヘアアイロンの表面温度を180度、200度と上げてもまったくゴムが焼けないこと。そこで水をスプレーで吹きかけても、ジュって言わずに、ジュワ―と湯気が立って水がなくなっていくんですね。普通の鉄板であれば、表面温度が100度超えていたら絶対にジュっと音を立てるはずなんですがそれがありませんでした。

水野さんは私に「すごいだろう」と紹介してくれましたが、その当時どれだけすごいことなのか理解が追いつきませんでした。韓国の工場には他にもいろいろなものがありましたが、工場の人もいまいちわかっていなかったと思います。

ーー韓国から持ち帰ったヘアアイロンはラバー(ゴム)を被せただけの形状だったのですか。

樫原
そうです。ただジュっと言わないというヘアアイロンでした。しかし、使い方が分からない。僕らは美容師だからまずは使い方から開発していこうとしたんです。
勝代
父は韓国から持ち帰ってきたヘアアイロンを製品化して、美容師さんに広げたいと常々言っていましたね。水蒸気爆発を起こさないのでお客様の髪にも安全であり、美容師にとってもサロンワークが楽になる。しかし、それをどうやって広めたらいいのかがわかりませんでした。

サロンで実践、失敗を繰り返しながら開発が進む

――どういった形でラバーアイロンは開発されて行ったのでしょうか。

樫原
実際にサロンの中で使いながら、ラバーアイロンにはさまざまな場面で使える可能性があるとわかってきたんですね。もちろん最初に使う時は失敗が怖いんです。それまでに水野さんも私も毛髪科学の積み重ねてきた経験があるので、大体の予測はできるのですが、予測とは違う結果になる場合もある。そういった失敗を繰り返しながらも、失敗から学び、使い方によっては最高の仕上がりになることがわかってきました。

また、開発していくのは机上の空論ではなく、サロンの中で実際に使って行くのが一番大事だと思いましたね。なので、エヴァロンは、実際にサロンで利用されたお客様の発想から得た商品だと思っています。
雄介
実際にサロンではお客様がモデルとなったり、お客様からの声を直接聞いたりしながらラバーアイロンを開発して行きました。今の時代、当時なかった原料があったり、熱反応型が主流になったりと、時代は変わりましたが、私たちはそれよりも早い段階からラバーアイロンをつくってきた。時代がどんどん成長していく中で、時代の方が私たちに追い付いてきた印象です。
樫原
確かに早すぎた部分はありますね。使い始めた当初は、多くの美容師たちはラバーアイロンの使い方がわかりませんでした。髪にいいものだと頭では理解していても、使いこなせない。
勝代
あるスタッフは、ラバーアイロンの使い方がわからなくて失敗したことがあったんです。液剤とラバーとの相性が合わずお客様の髪の毛が切れてしまって。そのお客様はたまたま父の大ファンだったから許してくれたようなんですが。
鎌田
僕もそれを聞きました。当初ラバーアイロンは、美容師さんたちに広めたいという思いが水野先生にはあったようなんですが、現場では美容師さんたちになかなか伝わらないということがあったようなんです。

先生がいつもおっしゃっていたように、美容師はサロンに来ているお客様をきれいにするのが仕事。しかし、縮毛矯正にしても現実には、髪の毛を焼いてさらに、アイロンプレートで毛の断面を押しつぶすというのが従来のやり方で、それを美容師さんたちはすきバサミを使ってカットでなんとか上手くカバーしていたんですね。もちろん水野先生はそのことに気づいていました。

僕は従来のヘアアイロンによって毛の断面が押しつぶされているのを写真で見ましたが、その時、毛を焼かない、毛を押しつぶさないラバーアイロンの可能性を大きく感じましたね。

髪も肌もヤケドさせないヘアアイロンの誕生

―従来のヘアアイロンとエヴァロンはまったく違った特性がありますね

鎌田
そうですね。従来のヘアアイロンでは、髪を焼いて溶かすことによってスタイルを作っていたので、乾いた髪では毛が熱くて触れなかったんですね。実はエヴァロンも初めは同じようにウエットの状態でスタイルを作っていました。そこで試しにエヴァロンを乾いた髪に使ってお客様のスタイルを作ってみたところ「これ今までとカールが全然違う」と喜ばれまして。

その時思ったんです。エヴァロンは、毛の断面を押しつぶさずにカールができ、顔に当たってもヤケドをしにくい。これは美容師さんよりもお客様に販売した方が喜ばれるのではないかと。

毛を焼かない、髪も肌もヤケドさせにくいというこのエヴァロンは本当に革命だと思っているんですね。これは本当にみんなで伝えたい、誰に伝えたいかというのはやっぱりお客様なんですよ。

なかには、アイロンの熱でヤケドをしている芸能人やモデルさん、一般の方も少なくありません。美容師さんたちは、髪型をデザインするのも大事だけれど、お客様の髪の毛をとことん考えるというのがこれからの美容師さんにとって必要ではないでしょうか。

髪が傷まないエヴァロンの魅力

樫原
縮毛矯正をしている方でも顔の周りに毎日アイロンを入れている人ってけっこういますね。毎日ヘアアイロンをするのは本当に髪の毛がダメになるのですが……。
勝代
私の周りの女性でも、髪が傷むのはわかっているけれど巻かずにはいられない人はいますね。きれいにしたいのに逆に傷んでいく。その矛盾をすごく感じている人は多いと思います。
雄介
実際に今あるストレートアイロンって技術的にはすごく難しいですよね。一般の方が使う場合、スピードを速くしないと、髪の毛が焼けてチリチリになったり。プロですら難しいものを一般の方が使うのはもっと難しいのではないでしょうか。

このエヴァロンは、一般の方でも簡単に使えますし、理論さえしっかりと勉強していただければ髪をきれいにすることはできると思うんです。仮に失敗してもすぐにやり直しできますし。普通のヘアアイロンだと失敗してしまったら濡らしてやり直さなければなりません。
勝代
あとエヴァロンは、仕上がりがやわらかいんです。プロの美容師さんはどんなアイロンを使っても技術でスタイルを作ることができますが、一般の人では早いスピードでヘアアイロンを動かすことはできません。でもエヴァロンだとやわらかく仕上がるので固まった感じにならないんです。
鎌田
エヴァロンは、髪を焼かず、ヤケドを心配することなくきれいな髪の状態でスタイリングできるという。これって本当に世界の女性の髪を救う。水野先生が元々言っていた「女性をきれいにしたいんだ」という原点なのかなと思いますね。
雄介
本当に初期のアスパというラバーアイロンからエヴァロンに至るまで、いろいろと改良もされてきましたが、今回本当に製品としてはすばらしい仕上がりになっているのかなと思いますね。

父が残した縁に感謝、多くの人にエヴァロンを伝えたい

――新しいヘアアイロン「エヴァロン」に関して、水野先生のどのような想いでいましたか。

勝代
父はラバーアイロンに関しては、本当に亡くなる寸前まで、とにかく一般の方に広めたいとずっと言っていました。しかし、自分ではもう広げられないとわかっていたので、どこかと共同で販売できたらと言っていたんですね。だから今回、マイハニーさんと共にできるのは父もすごく喜んでいると思います。
鎌田
そうですよね。水野先生が作ったものをさらにバージョンアップさせたいという思いと、世に出したいという思いと。先生は間違えていなかったよということが実現できたら、一番うれしいですね。
勝代
父は開発者でありクリエイターでもあったので、開発した人は思いが強すぎて伝えられなかった。つくり手は思いを語るのはいいけれど、売るのは違う人でなければ売れないんですね。

しかし父は技術だけでなく縁も残してくれました。私はそこにすごく意義があると感じています。いいものを自己満足の世界で終わらせずに、発信してくださる方がいる、実際に売ってくださる場があるというのはすごくありがたく感じています。エヴァロンを1人でも多くの方に使っていただきたいですね。

この記事に関連する商品